本の話し

2019年03月の本

  


しょぼい起業で生きていく
えらいてんちょう

出版社:イースト・プレス
発売日:2018/12/16

 動画記事では何度も紹介している"えらてん"ことえらいてんちょうの初の著書。
 方々で語られているプロフィール通り、大学卒業後は就職することなく様々な起業を繰り返してきたという。

 そんな著者が語る起業論だが、正直なにか真新しいことが書かれているという印象はなかった。
 著者の経験した視点、そこから語られる言葉はある種の説得力はあるが、起業や経営のノウハウを綴った種々の本のその範疇を出るものではない。また経営について学んできた著者だからできたであろう方法も散見する。本当の意味で、経営のノウハウなしに「小さく」起業をする方法論を説いたものではなく、どちらかといえば自己啓発本に近いものを感じた。
 そうした観点から本書を読み解くと、多分読者層としてはこれから就職活動をはじめるような学生を含めた若い人を前提にしているのかもしれない。社会との対応にまだまだ不慣れな彼らの中には、すでに不特定多数と交わることに辟易している人も多いだろう。私もその口だったのでそういう気持ちはよくわかる。そうした人に「こういう生き方もあるよ」というメッセージを与える意味では、とても有意義な一冊かもしれない。

 
 
 


アースダイバー
中沢新一

出版社:講談社
発売日:2005/06/01

 タモリさんの番組などいわゆる「地形ブーム」と騒がれて久しい。普段何気なく歩いている街並みも、地形的な側面から眺めてみると表立っては見て取れない歴史の重層や自然の妙を垣間見ることができる。
 本書はそんな「地形ブーム」の火付け役の一つとされている。
 著者一流の「中沢節」が本書では炸裂している感がある。
 しかしそれらが全て学術的に正しいかというと少し疑問が残る。地理学、地質学的にいうと「これはどうかな?」という部分が多々見受けられる。しかしその部分がかなり興味をそそられるところでもある。
 半ばファンタジー、想像の範疇に思いを馳せるということは決して学術的に意味をなすものではない。しかし想像力を膨らませるということは、何かを学ぶ、思索する上では非常に重要だ。本書はその糸口を与えてくれるには必要十分な内容だ。地理的な部分で専門家ではない著者だが、それ故に自由な立場での発言・提言は魅力的でもある。
 私もサブブログ等で散歩記事を時折書いているが、取材の際、本書のように縄文時代まででなくても、表面的に見えている現在の姿を少し掘り下げるだけでも見えてくるものの多さに驚かされている。
 来年いよいよ東京五輪が開催されるが、その前に、今一度東京の街を違った視点で見渡してみるのも面白いかもしれない。

 ≪関連書籍≫
 


アースダイバー 東京の聖地

大阪アースダイバー

 
 
 


人生が変わる メンタルハック大全
メンタリストDaiGo

出版社:セブン&アイ出版
発売日:2018/10/24

 メンタリストDaigoさんの著書。以前ほどテレビで見かけなくなったから「なにやってるのかな~」と思ったら、ニコニコやYoutubeライブでがっつりやっているというw しかしこれもご本人の性格上しかたないのかなという感じではある。
 本書はそんなネットの生放送で語られている内容をギュッと圧縮したような一冊。
 単純な心理テストや雑学程度ではない、科学的に裏付けがとれた人間の心理に基づいた理論。本来ならその原典となる本や論文は実に小難しいものだが、Daigoさん一流の咀嚼を通してとても分かりやすい。
 ハウツー本やライフハック集にはない「生きた」心理学。時に著者が「科学的には」「科学的には」という言葉に理屈っぽい印象を受ける人もいるかもしれないが、「科学的」に証明されているということは即ち再現性があるということだ。
 本書に載る知識を生かすも殺すも自分次第というところに、本書の妙があるのではないかと思う。

 
 
 


雑草のはなし―見つけ方、たのしみ方
田中 修

出版社:中央公論新社(中公新書)
発売日:2007/03/01

 「雑草のはなし」というタイトル通りの本。
 普段の生活の中で、何気ない路傍に葉を広げる雑草。都会などでは目にすることさえも少ないだろう。しかし一つひとつをよく見てみると、その植生は実に多様だ。
 本書では季節ごとの雑草について、名前はもちろん特色や植生などを詳細に解説してくれている。冒頭には本書中に取り上げられている雑草のカラー写真が掲載されているが、本文中の該当記事付近にはその掲載はなく、参照するときなどは少々読みづらい。白黒でもよいから記事付近にも写真が欲しかった。
 とはいえそれを差し引いても内容は十分におもしろい。
 実際に自分で雑草を育ててみたり、採取のために遠方まで足を運んだりという植物学者である著者ならではのエピソードから導かれる結論は、私たちの何気ない普段の生活を見直すに値するほどの示唆に富んでいる。また、現行学校教育の場で使われている教科書の記載や実験方法への指摘も多く興味深い。加えて植物に対する知識を適度に刺激してくれるコラムも必見だ。

 ≪関連書籍≫
 


雑草手帳:散歩が楽しくなる

雑草はなぜそこに生えているのか

 
 
 

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