2019年09月の本 | ネットサーフィン見聞記
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2019年09月の本

 


慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件
木村 盛武

出版社:文藝春秋(文春文庫)
発売日:2015/04/10
Kindle版 共同文化社 HOPPAライブラリー 第7刷

 大正4(1915)年暮れ、北海道苫前村三毛別(現・苫前町三渓)で人類史上最悪のヒグマ襲撃事件が起きた。
 小説やテレビドラマ、世界の衝撃ニュースを伝えるバラエティ番組などでもたびたび取り上げられ、今では知る人も多い有名な事件だ。
 しかしこの事件が地元の北海道以外にも知られるに至ったのは、本書の著者によって事件記録が提出(「獣害史上最大の惨劇苫前熊○○事件」旭川営林局誌「寒帯林」昭和40年1・3月号)されてからで、そのときすでに事件発生から50年の月日が流れていた。

 著者は長年北海道の営林署の職員として道内各地を転々としてきた。
 その中で、事件地を管内にもつ古丹別(こたんべつ)営林署へ転任したことをきっかけに、事件の詳細を探るべく調査を開始した。
 事後40余年経っていたにも関わらず、事件の生存者や遺族、ヒグマ討伐に参加した人々などから貴重な証言を得る幸運に恵まれ、その報告書は精緻極まりない仕上がりとなった。
 事件発生時、実際にヒグマに襲われながらも奇跡的に助かった人物をしても「自分の知る以上に内容が詳細」だと賞賛された。

 本書は、その報告書を元に苫前三毛別事件の詳細を綴るとともに、著者自身が経験したヒグマとの遭遇記録、また写真家の故・星野道夫氏がヒグマに襲われて亡くなった時の記録、福岡大学ワンゲル部員遭難事件など、道内で起こった多くの熊害事件についての詳細な記録も付されている。
 そのすべてとはいえないまでも、ヒグマによる襲撃事件の歴史とその凄惨さを知る上で、大変貴重な一冊だ。なお戦前より営林署職員として勤務していた著者は今もご健在だ。

 さて先月、北海道札幌市の住宅街にヒグマが出没し、後日ハンターにより射殺されたという報道があった。
 この報にふれ、殊に道外から「可哀想だ」「施設に保護できなかったのか」などといったクレームが多数寄せられたらしいが、それを聞いて私は正直呆れてしまった。実状を知らない、あるいは実害のない安全な立場からの上辺だけの正論ほど無責任なことはないと、感じられた。

 私自身、北海道の山中に暮らす身の上にあって、ヒグマとの遭遇はかなり身近なことだ。しかしそれでもヒグマに対する恐怖心が薄らいだことはない。
 幼少時、祖父に連れられ山仕事の手伝いをしていたおり、強烈な獣臭が鼻を突いたことがあった。「この臭いはなんだろう?」と身体を起こした次の瞬間、祖父に首根っこを捕まれ軽トラに放り込まれた。祖父は簡易的に整備しただけの獣道にも関わらず、軽トラを猛スピードで走らせて山を下った。大きな林道に出てやっと停まったが、祖父の顔は依然厳しい。悪路に身体を揺さぶられ、あちらこちらをぶつけた私が祖父を問いただすと「いまお前の目の前に熊の子っこ(子供)おったべや!」と怒鳴られた。
 どうやら身体を起こしたほんの数メートル先に、熊の子供がいたらしい。季節は初夏だった。その時期の子熊のすぐ近くには必ず母熊がいる。
 東京から北海道に戻って就農して以降も、ヒグマと遭遇したことは一度や二度ではない。自宅の裏にあるデントコーン(牛の飼料用穀物)畑を熊は毎年のように荒らしにくる。
 とはいえ、山中で毛を逆立てたヒグマと対峙してからがら逃げ帰った数日後には東京に上京し、ニュースサイト界隈の管理人たちと普通にオフ会とかやった時もあるから、恐怖心がなくならないまでもどこかで感覚的に麻痺している部分もあるのだろう。

 いずれにしても、われわれ人間よりもはるか昔から、自然の中に息づいてきた野生動物たちと共存していくには、保護はもちろんだが時には駆除という手段を講じなければいけない場合が多々ある。それを人間のエゴと言ってしまうのは容易いが、現実問題としてとりうる手段は限られている。

 最後に、「スカッとするコピペ」などでも時折取り上げられる小咄の動画も貼っておきたい。動物愛護は大切だが、それもまた人間のひとりよがりなエゴなのかもしれない。
 
 
 
 動物愛護団体「なんで熊を殺すのですか!」
 


 (約1分50秒)


羆嵐 吉村昭

 
 
 


自分でわが家を作る本。
氏家 誠悟

出版社:山と溪谷社
発売日:2008/11/10

 巷で「DIY」の名の下、かつては日曜大工などと言われたそれが、ちょっとした棚や収納はもとより、デッキや小屋づくり、果てはリフォームなども自前でこなしてしまう人々の姿が多く見られるようになって久しい。それに伴う雑誌や専門書、テレビ番組やネット動画なども盛況だ。
 そのDIYの極地とも言うべきなのが、本書タイトルにも上げられている自分で「自宅を作る」ことではないだろうか?

 北海道の農家には、先祖が開拓団として原野を切り開いたという家も多く、今なお大工仕事を得意とする人が多い気がしている。もちろん地域にもよるのだろうけれど、それ故か、本書のタイトルを見て、個人的には「うん。フツーに建てられるっしょ」などと思ってしまった。
 しかし中には「そんなことできるの?」「素人仕事じゃ不安」と思う人もいるだろう。
 本書は自分で家を建てる上で必要なノウハウが事細かに詳説されている。建材の手配に始まり、書類の見方、申請の方法、設計の基本、材の加工、工事の手順、建材道具のイロハ、ライフラインの手配、棟上げ、内外装の基礎知識……などなど、写真やイラストも多数掲載して実に「痒いところにまで手が届く」解説をしてくれている。
 上下水道の引き込みや電気系統の処理など、専門業者への依頼や資格が必要なものに関しても、その方法はもちろんのこと資格取得に関する情報まであるのだから徹底している。
 家を建てないまでも、DIYに興味があるという人なら読んでいるだけでもワクワク興奮してしまうこと請け合いだ。

 私自身も就農して以降、仕事に関わる幾棟かの小屋を建てている。
 もちろんDIYというか、大工仕事にそれほど興味があるわけでもないが、それでも時に工業用の単管パイプを駆使してみたり、時に木材を組んでみたり、簡易的な測量を行ってモルタルで基礎を打ったこともあった。
 そんな私をしても本書を読んでいて「うわ~、これは楽しそうだ!」と興奮するほどだ。
 小屋づくりなどに興味がある人には手元に置いていて絶対に損はない、そのくらい実用的かつ重宝する一冊となっている。


小屋大全 夢の手作り小屋を実現しよう!
~小屋作りの実例と超実践的ノウハウ集~

 
 
 


がんばらない練習
pha

出版社:幻冬舎
発売日:2019/07/24

 昔からミーハーなもんで、本などを読んで「あ、この人(著作者)に会いたい」などと思ったら、イベントなどに参加してよく会いに行ったりしていた。
 今夏上京のおり、たまたま本書の出版イベントを阿佐ヶ谷の書店で行うというツイートをみたので、なんとか時間をあけて本書の著者であるphaさんに会いに行ってみた。

 phaさんと言えば、京大卒のエリートながら自他共に認める元日本一のニート。仲間たちと共同生活を送る「ギークハウス」の発起人であり、また自身の生活や経験をもとにした講演や雑誌記事執筆など、幅広く活躍されている。
 で、今回念願かなって初めてお会いできたのだが、その名の通り、本当に「pha(ファ)」とした感じの人だなと思った。

 ところで本書について、phaさんがいままで書かれた著作はすべて目を通しているのだが、今回のこの「がんばらない練習」はこれまでのものと比べてなにかテイストが違うような印象を受けた。
 本書を上梓する前、自身が発起したギークハウスを離れ十数年ぶりに一人暮らしを始めたことになんらかの起因があるようだ。
 本書ではその前後のことにも触れられているが、そこにphaさん自身の心境の変化のようなものが捉えられる。ただ、それは決してネガティブなことではないように思えてならない。
 あとがきにこんな一文がある。
 「僕は自分の”できなさ”に愛着がある。(中略)嫌だったこともつらかったこともあったけど、そんな体験が自分を作ってきた。もし自分の欠点が全部なくなってしまったら、そんなものはもう自分ではないだろう。(中略)だから、自分のできない部分を消し去ろうとしてがんばりすぎる必要はない。できない部分を愛して受け入れてやることが大切だ。それこそが自分らしさの本質なのだから」
 本書の元となった連載の依頼があった際、phaさんは「暗い気分なので暗いものしか書けそうにない」と担当者に伝えたというが、これはある意味で本書の読者へは救いの手となっているかもしれない。
 なにか自分にコンプレックスがあって、それが理由で落ち込んだり悩んでいたりするとき、本書を開いてみるといい。安直な例えだが、マイナスとマイナスを掛け合わせるとプラスになる、そんな感じだろうか? 
 自身を取り巻く現実のすべてを素直に受け入れた果てにあるのものを、ある人は「悟り」と呼んだかもしれないし、またある人は「真理」と唱ったかもしれない。大げさな言い方ではなく、本書の背景にはそんな深淵が広がっているように思う。

 
 
 


麺の科学 粉が生み出す豊かな食感・香り・うまみ
山田 昌治

出版社:講談社(ブルーバックス)
発売日:2019/07/18

 ラーメン、素麺、そば、うどん。
 日本の食文化においてとても馴染み深い麺類。
 その多くは穀物を原料とする”粉”から作られているが、本書はそんな麺を化学的な側面から紐解いてくれる異色の一冊。
 
 麺一つとってもそのバリエーションは豊富で、例えばパスタなんかでは長いものもあれば短いものもある。
 本書ではその起源にまで立ち戻り、その歴史や現在に至る分派まで仔細に語ってくれている。
 また、もっとも憎いところはその原材料たる”粉”に対しての科学的なアプローチだ。
 多少専門的な化学の知識は必要とするものの、丁寧な解説が付されていてとても読みやすい。
 それらの化学的な性質や反応をもとに、特に乾麺に関し「より美味しく」食べるにはどうしたら良いのかという実験が繰り返されているあたりは非常に興味深い。
 それは同時に化学の面白い部分でもあり、例えば、10分程度常温の水にさらした乾麺を推奨される半分の時間で茹でた場合、「もっちり感」や「風味が」増すけれども、常温水にさらした時間を長めにとるとかえって食感や風味が悪くなる。あるいはある麺は少量の水で茹でると食感に変化をもたらすが、別の麺では芯が残ったり鍋に付着するなどの問題を起こす……といった実用的かつ好奇心をそそられる検証がなされている。

 麺好きな人はもちろん、化学的な興味も十分に満たしてくれる、麺の「トリビア」を集積したような一冊。


麺の文化史

ラーメンを科学する
おいしい「麺」「だし」「うまみ」の正体

 
 
 

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