ビジネスモデル2.0図鑑
近藤哲朗
出版社:KADOKAWA
発売日:2018/09/29
インターネットやAIを取り込み、昨今めざましい勢いで変化をとげるビジネスの世界。本書は、その中でも特に注目すべき新規事業やスタートアップ、ユニコーン企業のビジネスモデルを100種、業種・ジャンル幅広く紹介している。
タイトルには「図鑑」とあるが、どちらかといえば「図説」「図解」という感じに近い。
各企業のビジネスモデルを独自の方法で図案化し、見開きでモデル全体の流れと解説を読むことができる。略歴によると著者は「面白法人カヤック」の出身というから、こういうまとめ方になるのもうなずける。
解説も各モデルの一長一短にまで丁寧に言及していてとても分かりやすい。
しかしその一方で、ひとつのビジネスモデルが生まれる背景にはその会社の歴史であったりその業界の問題点であったり、複雑な関係性が潜んでいるものだが、そうした部分への解説は今一つという感じを受ける。
全く新種の奇抜なモデルであるのなら、その一つひとつをピックアップするに越したことはないが、往々にして既存のものの新たな組み合わせもしくはアプローチから生まれるものがほとんどだろう。
そういう観点からすると、本書はビジネス界を次なる未来へつなげるために、現在の革新的なアイディアを網羅的に把握するための一冊だとも言える。
変化が激しいゆえに、ここに収録されているモデルもまた近い将来ありふれたものになってしまうだろう。その時のために、今の最前線を知っておくことの意義は大きい。
≪関連図書≫
ビジネスフレームワーク図鑑
すぐ使える問題解決・アイデア発想ツール70
メメント・モリ<復刻版>
藤原新也
出版社:朝日新聞出版
発売日:2018/12/20
発売以来30年の長きにわたり読み継がれてきた「死」の写真集。
タイトルの「メメント・モリ(memento mori)」は、ラテン語で「死をおそれるなかれ」という意味を持つ言葉だ。
本書の一部にはショッキングな写真もある。行き倒れたと思しきインドの修行者(サドゥ)の足に野犬が食いついている写真がある。そこには「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」という文字がならぶ。
インターネットはじめ映像が主流の昨今にあって、一つひとつの写真が強烈なまでの説得力をもっている。
この世に生まれてきたということは、必ず最後には死ぬということでもある。戦後の経済成長を経て、この国の日々の生活は豊かになった一方で、相関的に「死」というものがある種タブー視されてきたような気がする。なん人にも訪れるはずの「死」が、それを生きている当人たちの周りから隠されてしまったかのような印象だ。人間に限らない。動物、植物、それらの死もまた潔癖な何かをもって私たちの目の前から隠されてしまっている。
しかし、ニュースを見れば「自殺」の言葉を聞かない日はない。電車に乗れば「人身事故」の文字が何度目に触れるだろうか?
また普段自分たちが口にする食物は、それ自体がすでに動植物の「死」体であるはずだ。
そうした視点で眺めてみると、潔癖な何かに今まで覆い隠されていた「死」は、実に自分たちの生活のすぐそばにあふれかえっていることが分かる。「死」は生きている自分たちにぴったりと寄り添っているのだ。
いったいなにが日々の生活の中から「死」を遠ざけているのか? そしてそれはなにをもたらしたのか? 少し長くなるが、そのヒントとなりそうな印象深い一文を本書から引用したい。
「肉親が死ぬと、殺生が少し遠ざかる。一片の塵芥だと思っていた肩口の羽虫にいのちの圧力を感じる。(中略)老いた者の、生きものに対するやさしさは、ひとつにはその人の身辺にそれだけ多くの死を所有したことのあらわれと言えるのかもしれない」
ほんとに、フォント。 フォントを活かしたデザインレイアウトの本
ingectar-e
出版社:ソシム
発売日:2019/02/20
印刷物はじめwebページなど、日常生活の中でもさまざまな場面で目にするフォント。
頻繁に目にしておきながらいざ自分でそれを組み立ててみると、どうもダサいものしかできない。そんな人には必見のフォントのデザインレイアウト集。
著者は今一番売れているデザイン書「けっきょく、よはく。」の方。前作を読んだ人ならその期待度も高いと思うが、その予想をまったく裏切らないほど内容が充実している。
なぜこのデザインがダメなのか、あるいはどうしてこのデザインなら良いのか、本来言葉で説明しづらいデザインだが、本書では感覚的に陥りがちな部分にまで言及した丁寧な解説がこれでもかというくらいに手取り足取り論理的に説明されている。正直、フォントひとつでここまで変わるものかと思えてしまうくらいだ。そして解説を読むにつけて、「なぜこれが」「どうしてこうなの」という部分がしっかりと理解できてしまう。
初心者が次のステップに進むために用意されたような本だが、上級者が一度原点に立ち返って学びなおすにも最良という感じだ。
図版も多いため、デザインブックとして鑑賞するのもまた乙かもしれない。
≪関連図書≫
けっきょく、よはく。 余白を活かしたデザインレイアウトの本
ヤギと暮らす―田舎暮らしの相棒に!
今井明夫
出版社:地球丸
発売日:2011/09
ほんの数十年前ならどこの田舎の農家でも家畜を飼っていた。牛や馬、鶏など代表的ではあるが、それに負けず劣らず多かったのはヤギではなかったろうか?
近年、農家も担い手不足や耕作放棄地の増加により、相乗的に一人当たりの耕作面積が格段に増え、複数戸での共同経営を中心とした大規模経営が盛んだ。労働力を補うための機械化、広大な面積を効率よく耕作するための設備など発展目覚ましい。
しかしそんな中、ヤギは密かに雑草を食べることで除草してくれる動物として農村部で脚光を浴びている。
本書はヤギとともに生活している人々の暮らしぶりのほか、飼育のための基礎知識やヤギにまつわるエトセトラをさまざまに紹介・解説してくれている。
しかし、副題に「田舎暮らしの相棒に」とあることから期待していたヤギを飼っている現場の記事は全体の1/3に満たない。飼育の方法やその他のことに関しては、他の書籍でも紹介されている範疇を出るものでもないので、「ヤギと暮らす」実際を知るには少し物足りない内容だと感じた。
また、専門書というほど堅くはないが、入門書としては少々敷居が高い感じもあった。
しかし、ヤギの写真も相当数掲載されていて、しかもどれも結構カワイイので読み物程度に読むには十分楽しめると思う。ヤギのいる生活がどのようなものか、そのさわりをサラッと眺める、そんな感じだろうか?
普段は北海道の山の中で農家をやっている私だが、個人的にもヤギは飼ってみたいと常々思っていた。特に、牛乳と比してアレルギーを起こしにくいといわれているヤギ乳に関しては、興味を深くいだいている。
内心、昨今の農業を取り巻く環境の変化によってかつての里山の姿――一戸の農家に田畑・家畜があって、家で一つのサイクル、そして隣近所を含めたその地区・地域での少し大きなサイクル、そこで一つの生活圏がうまく循環しているような風景が失われてしまうことを、個人的に少し寂しいと感じている。仕方のない部分も多いけれど、そこで失われてしまう田舎のメリットは、現代社会にあって実は重要な部分なのではないかと考えている。
それを取り戻すのではなく、現状の農業の環境にどう組み込んでいくか、他の家畜に比して飼いやすいヤギを通してそのことを考えてみたいと思っている。いまだに実現できていないのだけども。……
≪関連図書≫
ヤギ―取り入れ方と飼い方 乳肉毛皮の利用と除草の効果 |
人間をお休みしてヤギになってみた結果 |