ものがたりの余白 エンデが最後に話したこと
ミヒャエル・エンデ 田村 都志夫 聞き手・訳
出版社:岩波書店
発売日:2009/11/13
『モモ』『はてしない物語』など日本でも愛読者の多いミヒャエル・エンデ。彼と長きにわたって親交のあった訳者が、エンデが亡くなる直前まで重ねた対話の数々を収録した一冊。
この対話集はもともと『エンデ全集』の月報に連載されていたものだが、諸事情により割愛したものや新たにテープから起こしたものなども含まれている。
少年時代の思い出や物語を書くことについて、最晩年にあって熟し切ったエンデ自身のありのままの姿が描き出されている。個人的には本書中盤、第三章にあたる「思索」についての対話が実に興味深かった。文化をめぐる思索の観点や言語に対する深い考察を読むにつけて、なにか、エンデの創作の秘密を垣間見たような気がした。
また本書の特筆すべきところとして、『はてしない物語』の翻訳者にして夫人であった真理子氏から数多くの写真が提供・掲載されていることもあげられる。あの素敵な物語の作者の日常を目で見ても楽しめるといったところだろうか。
本書中には既刊となっている『エンデのメモ箱』の話題が度々上がっている。こちらもご一読をオススメしたい。
数学の教科書が言ったこと、言わなかったこと
南みや子
出版社:ベレ出版
発売日:2014/04/22
長年高校で教鞭をとっている数学教師による中学・高校で学ぶ数学を題材とした副読本といったところか。教科書を学ぶための教科書、ともいえるかもしれない。昨今流行りのやりなおし系の類とはちょっと違っていることは確かだ。
というのも、一読後の感想として「この方は本当に数学が好きなのだろうか?」と正直思ってしまったのだ。それもそのはずで、本書の趣旨はその辺りにある。
もちろん著者は高校の数学教師であるし、そもそも大学院まで出ている方だ。数学が嫌いなわけではないようだが、曰く「もともと数学が苦手だった」「数学に向いていない」と。驚きである。
実際大学等で理数系に進んだとしてもみんながみんな数学が好きだとは限らない。苦手だと感じる人もいるだろう。殊、その多くの原因が中学・高校時の教科書の独特な言い回しだったりにある場合は少なくないと思う。本書では数学の授業という現場から、教科書の不親切さをさまざまに分析し読解する試みがなされている。ただし、著者個人のいろんな恨み辛み付きという特典があるが。だがしかし、そこに共感できる読者は多いのではないかと思う。「そう、これ分からなかった!」とか「確かに!」といった“あるある”の声だ。
長年教鞭をとる中で、数学の教科書がなぜ建前のような言葉ばかりならばせざるを得ないか、そして生徒がなぜそれにひっかかりつまづいてしまうのか、その両方に対する理解がある著者だからこそこの共感を産み得るのだろう。
…とはいえ、理数系でバリバリとやってきた人にはちょっと味気ない内容だと思う。学生時代、数学クライシスに陥った文系諸氏にはちょうど良いかもしれないが。
夢十夜 他二篇 (岩波文庫)
夏目漱石
出版社:岩波書店
発売日:1986/03/17
今年に入って、方々の2chまとめサイトで「夏目漱石の『夢十夜』とかいう日本の文学史上で一番美しい小説 (カオスちゃんねる)」といったスレまとめをたびたび目にしたので私も久しぶりに読んでみた。
確かに美しい小説だ。思春期の頃、父の本棚にあった漱石全集で読んだそれと、おじさん年齢になりつつある今読むのとではその印象は大きく変わっているのは当然なのだが、それは単に少しは人生経験を積んだからという理由ではない気がする。大学以降、専門書の類ばかりに目を通すようになって、以前のように小説を読みふけることが無くなったからだろうか? あるいはネット主流の世の中で知覚に刺激の強いものばかり目にするようになったからだろうか? ……自分でもよく分からない。日々ここで駄文乱文を書きとどめて、もはや「元物書きです」などとは軽々しくも口にできなくなったなと感じている今日この頃、改めて日本近代文学の雄の文章を目にして深く畏れ入ったという感を受けた。
漱石がなぜ今なお評価されつづけているのか? それは後にも先にも人間のもつ意識の内部への深い考察があったからだろう。それはいつの時代にも通用するだけの普遍的な力を持っていた。漱石の文章自体、決して美しいものだとは思わない(時に独特の言い回しがあったり、造語や引用があったり。同時代ならば鴎外や鏡花の文章の方が私は好きだ)。しかしその文章に描き出される人間の意識への眼差しには不思議と美しいものがある。
本書にはほかにも『文鳥』『永日小品』の佳作が併収されている。
縄文人に相談だ
望月昭秀
出版社:国書刊行会
発売日:2018/01/24
タイトル通り。以上です。……いや、まんまだからオモシロイのだがw
知る人ぞ知る、知らない人の間でも名高い『縄文ZINE』。縄文時代の事だけしか載っていないこのマガジンの編集長が送る人生相談集。
秀逸な副題「悩みなんて全部まとめて貝塚にポイ。」のとおり、現代人の悩める相談に縄文的な視点からの硬軟綯い交ぜな回答・珍答の数々。実際縄文期の人々がこんな風にものごとを捉えていたか云々は別にして、時に愛あり、時に厳しさありの回答はその懐の深さを感じさせます。
なにより本当に縄文が好きなんだということが人生相談の内容以上によく伝わってくるところがとてもステキ。掲載されてる土偶の写真がまたカワイイんです。
とかくあれだこれだと書き連ねるより素直にご一読をおすすめします。泣けます。笑い過ぎて泣けますw