日本再興戦略
落合陽一
出版社:幻冬舎
発売日:2018/01/31
世間は著者のことを評して『天才』と呼んでいるようだが、個人的には頭のキレる逸材ではあると思うが、至極まっとうな人だなという印象を持っている。
日本を『再興』させるために何をするべきかと語る本書に関しても同感だ。
著者は「ポジションをとる」ことをキーワードに過去と現在の日本の姿を照合し、テクノロジーや政治・教育、宗教など広範な分野への提言を掲げている。
正直なところ、「広く浅く」ではないが言及する分野が広すぎるあまり内容自体は薄い。論調に深みがないという方が正しいだろうか?
しかし思うに、本書は“日本”という国の未来全体を包括的にとらえるマクロな視点に立った青写真を示しているのではないか?
つまり、新進気鋭の一科学者が示したビジョン。数値データの根拠が乏しかったり内容自体個人的雑感に終始していたり、およそ科学的な感を受けない側面を本書は有しているが、読んでみてむしろそれがかえって良かったような気がする。
昨今、以前にも増してどんなものにも根拠や意味を求めたがる言説が耳目に絶えないが、そんなことは放っておいて「まず、こういう未来像ってどう?」と、ボンと目の前にイメージ図を投げ出されたような感じを受けた。
大雑把で厚切りで、ざっくりとした感じは著者がまだ30歳そこそこということとも相俟って、若い人にありがちな言説とも見受けられるかもしれないが、深い議論などそもそも後でもできることで、まずは著者をしてこうした未来像を示したことに本書の妙があるように思う。
なによりここに描かれていることが5年後10年後に重要な意味を帯びるのか、あるいは全く無意味に帰すかは、今後の自分たちの議論や思考、行動に委ねられている。
ひとつだけ私が杞憂していることを挙げておく。著者の頭の回転の速さや行動力など、個人的にも高く評価しているし世間的にもそういう評価だろうとは思う。発言力もあり輝かしい経歴・実績も持ち、なにより若くしてそうした立ち位置を築いたことは大いに称賛されるべきことなのだが、この国にあっては体質的にこうした人物の足をひっぱる人がだんだんと出て来てしまう。多分著者ならそこらへんも十分察した言動をとれると思うが、さような人たちに潰されてしまわないことを祈るばかりだ。
行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険-リアルRPG譚-
春間豪太郎
出版社:ベストセラーズ
発売日:2018/03/20
2ch(5ch)のスレなどでたびたび登場し人気を博している「バカだけど○○旅した」シリーズのスレ主さんによるモロッコ探訪記。
cf,http://world-fusigi.net/tag/バカだけど旅人 豪太郎さんの旅シリーズ (不思議.net)
タイトルに“リアルRPG譚”とあるが、読後これは立派な人生譚だなという印象を受けた。
旅人となる色んな意味で衝撃的なきっかけ。サクっとしか触れられていないがこの旅に出るまでに積んだ修行(?)の数々。なぜか出会ってしまうとある嗜好の方々……。現地の人からも当初は無謀といわれた旅の中で、次第に増えていく同伴者が動物たちだったという点が非常にユニークなのだが、人生において邂逅のきっかけほど数奇なものもなく、そこから生まれる出会いや別れ、笑いや涙など、人間と動物の如何によらず自然という大きな舞台の中で育まれ繰り広げられる友情ドラマには感涙を禁じ得ない。
通常こうした旅行記にはその土地その土地の詳細な情報や風景の描写などが豊富に取り入れられていたりするが、本書の場合、旅人としての素直な雑感、旅路の仲間たちとのやりとりなどがメインに描かれており、著者の旅路の経験を読者に追体験させてくれる上でとても入り込みやすかった。ただ、そうした点をもっと補う意味でももう少し写真などの図版が欲しい感は否めない。
とはいえ場所はモロッコだ。日本人旅行者にとってはエジプト・インドと並んで世界三大ウザい(?)国民性(平気で嘘つくとか約束破ってもスルーとか)の国だ。そこの旅行記というだけでも情報としては十分だろう。
また、本書は旅行記以前に読み物として十二分に楽しめるものだが、時に、普段この日本に暮らしている中では気付かない、あるいは忘れてしまっているなにかを気付かせてくれる箴言録のような感もある。
個人的に特に印象深かったのが、第2章で著者がラクダ飼いの見習いとして働いていた時分の描写。ラクダにとって一番うれしいことはなにかという問い対して、
「(ラクダたちにとって一番嬉しいのは)広い世界を歩き回れることなんだよ。せっかくこんなに広い世界があるっていうのに、壁に囲まれた狭い空間で一生を終えるなんて、悲しいじゃないか」
という現地の方の言葉だ。なにか胸に突き刺さってくるものはないか?
著者のような冒険的な旅ができるのも若さ故だが、その気になればいつだって目の前にはスタートラインが引かれている。
世界は広い。自然は豊かだ。そして人間は……。著者はその答えの一片のかけらを見せてくれているような気がする。
ヨシダ,裸でアフリカをゆく |
ヨシダナギの拾われる力 |
cf,2016年8月の本
へんな言葉の通になる―豊かな日本語、オノマトペの世界
得猪外明
出版社:祥伝社(祥伝社新書)
発売日:2007/08/01
はじめに言っておくと、この本は学術書ではない。内容も様々な資料からの孫引きばかりだ。
それもそのはずで、著者は元サラリーマン。仕事の関係で海外を転々とする中で、諸国の言語が持つ多様な表情に魅せられて在野で言語の研究を行っているという人だ。
本書はその研究の中でも、副題にあるオノマトペ(希:onomatopiia 擬音語・擬態語)を中心に日本語に隠された豊かな側面を解き明かしている。音節数の少ない日本語が、意思伝達の手段としての表現を補完するために、他言語に比してこうした言葉が多いという指摘などには大変興味がそそられる。
雑学としてこうした知識を持ち合わせているのはとても有用で、殊、日頃使っている言語であればその意外な由来や変わった用例などに驚かされるものだ。
各章末にオノマトペの練習問題も付されているなど作りも面白い。