本の話し

2016年5月の本


母さんごめん、もう無理だ きょうも傍聴席にいます
朝日新聞社会部 (著)

 法廷で明かされた29編の人間ドラマ。
 正直、読んでいると気持ちが暗くなります。
 犯罪を犯すことは許されないことだが、その裏には当事者しか知りえない様々な苦悩や葛藤がある。
 そうした背景に視点を向けて、人として生きるために大切な何かを気づかせてくれる一冊。
 中には世間を騒がせた有名な事件もいくつか掲載されているが、
 個人的に、そうした事件についてはもっと掘り下げた考察も欲しかったなと思う。


1982
佐藤喬

 ご縁あって、著者の佐藤氏とはお互い学生時代に何度かお会いしたことがあった。
 (氏が覚えていてくれているかは不明だし、私の方も若干記憶が曖昧だったりするが…)
 氏とは同世代。一読後、彼が当事者として我々の世代が今まで歩いてきた道を鮮明に描き出してくれた感を得た。
 だからあえて内容には触れたくない。
 あの時我々が感じていた社会や時代への想いは、この一冊で十二分に伝わることだろう。
 氏がこの書を上梓してくれたことに感謝したい。


震災風俗嬢
小野一光

 東日本大震災後、わずか一週間で営業再開した風俗店。
 そこで働く風俗嬢たちを震災以降の長きにわたり追いかけた力作。
 一見不謹慎な…とも思えるが、一度ページを繰るとそれが誤りであったことに気づく。
 被災まもない生々しい現実。自らも被災し傷ついた譲たち。
 だが、そうした中でも人の心がもつ温かさを信じ生きているその姿を描き出し、
 読む者に感動を与えてくれる。


無名の人生
渡辺京二

 著者・渡辺京二氏が自らの半生を顧みつつ、その人生観や幸福観を語っている。
 深い人生経験や均整のとれた知性に裏打ちされた行間からは、
 なんともいえない味わいさえ感じさせてくれる一冊である。
 しかし、私個人としては同調できない見解もいくつかあったことは事実。
 ただそれらを含め、対峙してみるには良書であると思う。
 なによりエッセイということもあってか、
 それまでの氏の著書のような堅苦しさもなく、優しい言葉が並ぶ。

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