本の話し

2019年07月の本

 


ファミコンに育てられた男
フジタ

出版社:双葉社
発売日:2018/06/20

 あまりにセンセーショナルなタイトル。
 ファミコン芸人・フジタさんの自伝的ファミコン論。

 小学校入学直前に母親を亡くし、その後父親とも疎遠な生活を送ったという幼い日の著者。父親は友人の母親と良い仲になっていたというから事態は複雑だ。
 学校から帰っても誰もいない家。小学生がたった一人で暮らすにはあまりにも寂しすぎる環境。そんな中で著者の心を満たしたのが、当時爆発的な人気を博したファミコンだった。
 私も同世代なので、その時分の小学生間における圧倒的なファミコン熱の高さを思い出さずに入られなかった。

 自伝的としたのは、著者の「ファミコンに育てられた」という部分での語りが冒頭に少しあるばかりで、正確な意味での自伝とは感じられなかったからだ。むしろ本書の大半は、著者が夢中になったソフトの紹介と批評、そしてそのソフトにまつわる自身のエピソードが作品ごとに並べられている。
 個人的にはソフトごとに区切るのではなく、時系列的にどのような遍歴をたどって今に至ったのか、そんな語りであってほしかった。ソフトごとだとどうしても時系列の部分が前後してしまう。

 とはいえ、当時を知る人にも知らない人にも、かつてファミコンが小学生の間でどれだけ偉大な存在であったかを思い出すあるいは知るためにはなかなかの好書。

 
 
 


「集合と位相」をなぜ学ぶのか
数学の基礎として根づくまでの歴史
藤田博司

出版社:技術評論社
発売日:2018/03/06

 大学の教養課程で学ぶ数学は、その基礎においても高校までに習う数学とは「似て非なるもの」というくらいに抽象的になっていて、本書が扱う集合と位相はじめ、ε-δ論法、群の定義など、それまで触れてきた数学とはあまりにギャップが激しく戸惑う学生も少なくない。
 本書のまえがきに「(この本は)教科書ではない」とあるが、現代数学の基礎として立ちはだかる集合と位相について、どのようにこれらの概念ができあがりなぜ導入されるに至ったのか、本書はその歴史的背景にも言及しつつ分かりやすく紐解いてくれる解説書だ。

 一般に入門書というのはその分野を専門的に学んだ者にとって、足がかり的な意味での「入門」なので非常に難解なものが多い。
 しかし本書は数学を学ぶ大学生の副読本、あるいは現代数学を学びたいと思っている人向けの内容になっている。数学が得意な現役高校生なら少し難しいながらも興味がそそられる、そんなレベルだろうか?

 私自身つねづね言っていることだが、理数系の科目、とくに受験に関わる数学に関しては、不得手あるいは食わず嫌いならばそれら公式や証明がなされた歴史やエピソードを学ぶことで、かなりの部分を興味持って理解できるようになるものだ(ただし、この方法は「数学の担当の先生がキライで数学もキライになった」などの場合には通用しない)。
 本書はそのことを十二分に見せつけてくれた感がある。また微に入り細を穿つ解説なので、高校数学の範囲を網羅している文系学生でも十分読みこなせる。

 集合と位相という現代数学の基礎として必須のこの分野、それが如何にして生み出され発展してきたのか? 天才数学者たちの悪戦苦闘の軌跡は大いに見ものだ。
 
≪関連図書≫


位相のこころ Kindle版

集合・位相入門
松坂和夫 数学入門シリーズ 1

 
 
 


グルジア映画への旅
映画の王国ジョージアの人と文化をたずねて
はらだたけひで

出版社:未知谷
発売日:2018/04/10

 タイトル通り、グルジア(日本では2015年以降ジョージア。以下これに従う)の映画をめぐる本。
 著者は長年、東京・神保町にある岩波ホールにて映画上映に関わってきた人物。本書はそんな著者をして、一度でもその土地を訪れた人はたちまち魅了されてしまうという"シャングリラ"ジョージアの映画作品を数多く紹介・解説している稀代の好書だ。稀代というのは、そもそもジョージアを紹介する書籍自体が世界的にもかなり少ないという現状がある。

 本書はジョージアの映画の紹介以前にその歴史や文化をも詳しく解説してくれている。
 それはジョージア映画が成立する上で、国の置かれた環境というものが大きく関連していることに起因。
 周囲を海に囲まれ2000年余の歴史を持つ日本と比して、周囲を強国に囲まれながら併合や分離を繰り返しながらも同等の長さの歴史を有するジョージア。「人類の坩堝」と称されるコーカサス地方にあって、この国の担ってきた役目はあまりにも大きい。
 その歴史の結晶として花開いた“第7の芸術”映画は、2度にわたる大規模な停滞期を乗り越え、今なお世界中の人々を魅了する。

 名作『ピロスマニ』。ジョージアを代表するニコ・ピロスマニの生涯を追ったこの作品を皮切りに、ジョージアに魅了された著者が綴る本書は、専門的な本とはいえ堅苦しさがない。むしろ愛情と矜持に彩られた自信さえ伺える。
 こういう本を一冊でも多く手元においておきたいものだ。

 
 
 


なるべく働きたくない人のためのお金の話
大原扁理

出版社:百万年書房
発売日:2018/07/04

 「足るを知る」という言葉がある。
 時折「今の状況に(仕方なく)満足すること」と誤解しているひとがいるが、本来は「これで必要十分、すでに充分満足であることを知る」という意味である。

 上京すると同時にお金に振り回されるような生活を送った著者が「何をしたくないか」を突き詰めた結果、最低限必要なものだけを身の回りに残すという昨今流行りのミニマリスト然とした生活がスタートした。そこで見えてきたお金とのかかわり方についての著者一流の視点は、世間ではメジャーとされている生き方に半ば実験的な意味で相反するものだ。
 その根本にみえるのは「お金ではない解決方法」をとることだと著者はいう。
 いかに「お金」の呪縛から逃れ、自由に生きるか。その時に大切になってくるのが、「自分がどうあれば満足なのか」という自分基準の"幸せの定義"を持つこととなる。それはすなわち、世間的に良しとされている生き方とはまた「別の生き方」を選ぶことでもある。「自分がどうありたいかを人任せにしない」という言葉には大きな説得力がある。
 
 自分が満足できる生活、その最低限を支える収入。この部分を突き詰めた著者の言葉には「やりたくないことはやらない」「なにが必要でなにが必要でないか」、その辺をきっちりと分け隔てる強靭な精神力をも感じるのだが、その先にあるのは“何かを引き受ける”代わりに“何を手放すか”ということでもある。
 現実問題、本書で語られるような生活は「一人」であるがゆえに可能だ。もちろん、自給自足のような生活を送る家族もあるわけだから、それが絶対的なこととは言えないとしてもかなり稀有な例と考えた方がいい。また「お金」ということに関しても、実際大病や障害を抱えた際、本書のような状態では現在の日本の状況からすると途端に立ち行かなくなる可能性が極めて高い。
 いずれにしてもそうしたリスクをとるか、それとも日々の幸福感をとるか、すべてを鵜呑みにせずに“実例を伴った”ひとつの視点として本書を読むことをお勧めしたい。

 著者は現在海外での隠居生活を実践しているようだが、これまでの著書も含め、学べる部分が非常に多いのは確かだ。
 
≪関連図書≫


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