東日本大震災後文学論
限界研
出版社:南雲堂
発売日:2017/03/10
2011年3月11日。
忘れもしない東日本大震災が起こった日。
あれから早6年の月日が経とうとしているが、日本に住む者にとっては未だ現在進行形として続いている。
文学とは何かという問いに答えはない。
しかしそれの持つ一つの側面として、同時代的な視点の在りようを謳い上げる力の所在であると感じざるを得ない時がある。
あの日から何が変わってしまったのか。あの日から何が置き去りにされてしまったのか。
批評家集団・限界研(旧・限界小説研究会)のメンバーによる渾身の文学論が今年の震災の日に世に出た。
近年では滅多に見かけなくなった圧巻の600ページに及ぶ論集は、文学の域を超えて映画をはじめとした現代日本文化全体へもその論を進める。
この本のずしりとした重みこそ、あの日、われわれが受け取った未来からの挑戦状ともいうべき現実をコンパクトにこの手の中へ納めてくれた感が否めない。
反時代的だ。あの震災も反時代的ならば、その後の全ても反時代的だ。
それが故に様々なテーマをもたらしえた。
この6年、人々は何を求め何を生み出してきたのだろうか?
それに対峙するには、まずはこの強烈な一冊と向き合うのも一策なのかもしれない。
やりたいことがある人は未来食堂に来てください
小林せかい
出版社:祥伝社
発売日:2017/04/01
都内・神保町駅のほど近くにあるわずかカウンター12席の小さな食堂。
メニューは一つだけ。一度来たことのある客なら、店を50分手伝うと「まかない」として一食タダ。……
昨今メディアでもたびたび取り上げられている主・小林せかいさんのユニークなこの取り組み以上に、徹底的なまでの合理性から生み出された無駄のなさには驚くばかりだ。
この本は、そうした食堂の在り方を通じて、やりたいことがあっても“できない”という「壁」を持った人々に、いかにしてそれを乗り越えていくかの行動と考え方を綴った一冊だ。
理想と現実には常に大きな差がついてまわる。
そしてそのことに日々いかに振り回されてしまっていることだろうか。
「行動しなければ、現実にならない」
そう分かっていてもなぜすぐに動き出せないのか。
著者は「判断軸」という言葉を用いて自らが正しいと信じることを実行する。
その前提になるのが「自己確立」だ。
「自分がやりたいこと」を深堀りする、あるいは問題点と恐怖を混同しないなど根本的なことへの提言にはじまり、量をこなすばかりでなく目標を数値化する、やる時間を決めるなど、常識を疑い常にインプットを行いつづけ、「壁」を乗り越えるためのステップを自ら切り開いていくための珠玉の言葉が並ぶ。
理想や夢を実現するためにひたすら行動を起こし続けるための必読書と言える。
自分の理想や夢をあなたは“自分の言葉”で語れますか?
好きなことだけで生きていく。
堀江貴文
出版社:ポプラ社
発売日:2017/05/09
先月発売になったばかりの堀江貴文さんの新著書。
正直なところ、冒頭を中心にHIU(堀江貴文イノベーション大学校)の宣伝本である。
しかし内容を抽出すれば、そこには、好きなことややりたいことを仕事にして生きていきたいと思っている方々にとってはとても参考になる“考え方”が示されている。
私は常々、堀江さんは視点の移行が実に巧みな人だなと思っている。
それは他人を煙にまいて云々という意味ではなく、自分自身の中で、今どういう視点や立場でものを見たり考えたりしているのかをしっかり把握した上で、そのものに対しどう反応しているのか、そして最終的にどうしたいのか、その全体像をしなやかに俯瞰する視点の移動だ。
他人ではない。自分自身の中にそれを見出すのだ。
この本には堀江さんのそうした信念がぎっしりと詰まっている印象を受ける。
銀の匙
中勘助(著) 橋本武(案内)
出版社:小学館
発売日:2012/12
数年前、“奇跡の授業”としてドキュメンタリーなどで数多く取り上げられた名門・灘中学での国語の授業。
その授業を行っていたのがこの本の案内人・橋本武先生だ。
そしてその授業で用いられていた教材が、この中勘助『銀の匙』である。
授業そのものの実際とその遍歴や逸話などは『奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち』に譲るが、この本は、その橋本先生自らによる『銀の匙』の解説や味わい方を堪能できる良書である。
本編はそれこそ中の名作だが、それ以上にいろいろのことを感じられ、興味深く読める。
忙しい世の中になって久しいが、ここはじっくり腰を据えて一篇の小説と向き合ってみるのも感慨深いものではないか?