好奇心の赴くままに ドーキンス自伝I: 私が科学者になるまで
リチャード・ドーキンス (著) 垂水 雄二 (翻訳)
出版社:早川書房
発売日:2014/05/23
この世の中には良くも悪くも『適材適所』という言葉がある。
自分に向いていると思ってもそうではない場合があるし、そのまた逆も然り。
その在りうべき所に落ち着くに至る道程は、最早偶然でしかない。
ベストセラー『
利己的な遺伝子』の著者が自身の生い立ちからその出版までを描いた自伝。
幼少期をアフリカで過ごしたことが進化生物学者になる礎だったかという自らの問いに、著者は心許ない返答をする。
また著者は筋金入りの「無神論者」としても名高いが、その思想の背景はいかにして生み出され育まれてきたのか?
偶然というのは時に神のいたずらのようにも見えるが、それは適正を極めた流れに沿うた必然なのかもしれない。
読後の個人的感想。
一つ残念なことをあげるなら、翻訳があまりうまいものではない感じが否めないところだろうか。
本文中には様々な詩が引用されていて、自伝としては作りがかなりユニークだ。
しかし、それは同時に著者の言葉に対しての鋭敏な感性の表れでもある。
この本の原書に当たったわけではないので確かなことは言えないが、本書の翻訳作業は相当大変だったのではないかと予想できる。
利己的な遺伝子
ネコがメディアを支配する ―ネットニュースに未来はあるのか
奥村 倫弘
出版社:中央公論新社
発売日:2017/05/08
日頃羅列系のニュースサイトを運営している身としては、正直耳が痛い内容である。
既存のメディアとネット上の新しいメディア。この両者に関わってきた著者ならではの視点から論じられた次世代の報道論。
大学での講義内容をまとめた形なので少々固い感じの文章だが、それはまた大変真面目に語られている証拠なのかもしれない。ただし、ネコは出てこない。
PV稼ぎのために週刊誌よろしく大々的な見出しを謳い、その実、中身がほとんど内容な記事。
確かにまともなニュース記事というのはネット上には本当に少ないように日々感じている。
中川純一郎氏曰く「ウェブはバカと暇人のもの」と揶揄されても仕方ないのが現状だ。
誰でも容易に書けて、誰でも容易に発信できる。それがネット世界の最大の利点である。だがそれは同時に、それまで既存のメディアがプロ意識の下でやってきた校閲等の専門的な作業が一切なされていないことをも意味する。
いいかげんなまとめサイト然り、いわゆるフェイクニュース然り。
だがそうした中身のないものも含めネットという世界なのであって、「海外の難民のニュースとネコ動画だったら、多くの人は後者を見たがる」という点は、ネットの責任というより読む側の人間の性質の問題なのではないかと個人的に感じる。そしてその取捨選択が可能な時代になったというに過ぎないのではないか?
もちろん著者の経歴からして、今まで長らく様々なメディアと関わってきた記者としての高い志からくる価値観を否定する気はないし、むしろネット上の新しいコンテンツを生み出すヒントさえ得られるような気がする。
しかし、本書で語られることをまともに受け入れれば、そうした姿勢そのものが現在のネット上の記事の品質低下、画一化を招いた原因を招いているようにしか感じられない。
メディアを先導するジャーナリズム精神の必要性を説くならばまず何を解決しなければならないか、その点に対しての道筋が一切語られていない時点で、やはり本書の内容自体不毛に感じられてしまったのが残念だ。
最後にもう一度言うが、ネコは出てこない。
悪の歴史 日本編〈上〉
関 幸彦
出版社:清水書院
発売日:2017/08/01
歴史上に名を馳せる英傑、あるいは悪名高い権力者たち。
古代から安土桃山にかけての31人にスポットを当て、通常の歴史観の中では語られてこなかった意外な人物像を掘り起こしている本書。
身近にいる人物でもふとした瞬間の言動から意外な側面を垣間見ることがままある様に、歴史上の人物にもまたそうした側面が当然ある。
それらを複合的に観た時に、改めて浮かび上がってくる人物像は今まで知るその人物とはかけ離れた姿をしているかもしれない。
普段、人に限らずなにか物事を捉える際、どうしても一方向から捉えようとしがちである。その方が楽だし手っ取り早いということもあるが、その人が今まで培ってきた知識や経験が悪い意味で色眼鏡をかけさせていることも原因ではあると思う。しかし、それは同時その他の面を切り捨てることに他ならない。これは実に勿体ない話しだ。
本書は、そうした当然のことを見直すヒントを十分に与えてくれる。
「悪の歴史」東アジア編〈上〉
恋愛メディアがひろってくれない 童貞の疑問を解決する本
AM編集部
出版社:双葉社
発売日:2017/08/09
童貞はなぜ童貞なのか…?
女性から見て男性が陥りやすいポイントに切れ味良い回答を与えてくれる痛快な一冊。
身も蓋もない感じで非常に好感をもって読めた。
童貞であることを恥じる必要はどこにもない。むしろ魔法使いになれる可能性が高まっているくらいに思っておけばいいのだ。
だが本書を通じて感じたのは、童貞であることは、それは身体的な問題というより精神的、殊コミュニケーション等の人と人との関係性において基本的な部分で問題があるということだ。
自分も感情を持った人間なら、相手もまた然り。自分のことしか考えていない人間は、結局周りから協力や援助をもらえないのと同様に、愛あるいはセックスもやっぱり同じなのだ。
カズレーザーさんだったかがいつぞや「愛のあるセックスは凄く気持ちイイ」というようなことを言っていたけれど、その通りだと思う。
何故か? 愛とは一体なんでしょうね?