本の話し

2019年06月の本

 


大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機
大麻博物館 著

出版社:大麻博物館
発売日:2017/01/17

 昨今、芸能界を中心に麻薬としての大麻にからむ逮捕者が続出している。諸外国のなかでは大麻を合法化する動きもあるものの、現行の日本の法律下にあって、大麻所持は大麻取締法によって厳しく取り締まられている。この場合における大麻とは、その「葉」と「花穂」のことである。

 本書は、農作物として長年栽培されてきた大麻、特にその「茎」と「実」を中心に、日本人の生活にいかに密接に関わってきたのかを、綿密な取材や詳細なデータ、専門家によるコラムを交えて解説している。
 「大麻はそんなに悪いものではない」「間違った使い方をしている人がいるから誤解されている」などという単純な大麻礼賛はなく、むしろ、稲作よりも古いとされる大麻栽培、その実体や方法を歴史的背景などにも言及し淡々と語られている良書だ。

 大麻に代表される大義での「麻」は、今でも繊維や袋・紐など生活に密接に関わる部分で多用されている。古代では租庸調にも含まれ、また神事においても重要な役割を担ってきた。各都道府県ごとに受け継がれてきたその名残の一例集は、実に興味深い。
 しかし現在ではそのほとんどが海外からの輸入品であったり、同種の別物であったり、古来より用いられてきた「麻」は姿を消しつつある。それはつまるところ、大麻栽培がほぼ壊滅的な状態であることを意味している。
 なぜそうした状況に陥ったのか、またその原因は何か。巻末において、その背景とこれからへの言及が付されているが、それはまた大麻に限らず農作物全体のこれからも暗示しているかのようだ。

 
 
 


月と蛇と縄文人
大島 直行

出版社:寿郎社
発売日:2014/01/28

 表紙の油絵について、第一章後半部では「科学的な認識に基づいた本格的な写実絵画」「哲学的メッセージが「隠喩」として込められた芸術作品」だと語られている。
 一方表紙右下の土偶≪縄文のヴィーナス≫については、「「誇張」というレトリックの手法を全面に出し」「呪具としてデザインされている」という。
 この対比が示している意味は果たして何か。

 本書は従来の考古学で語られてきた縄文文化を、心理学や宗教学、修辞学といった視点から見つめ直し、人間の根元的な思考方法をその背景に見ようと試みている。
 特にドイツの日本学者ナウマン氏の理論を基軸に、縄文の土器や土偶を月・蛇・子宮などのシンボリズムとして読み解いていこうとしている点は挑戦的でとても興味深い。
 しかし、どこか強引に全てを結び付けようとしている節があるのは否めない。全てを同一の理論で語るにはいささかの無理がある。なにより、現在を生きる我々の視点から当時の人々の思想背景を読み解こうとすること自体ほぼ無理なわけで、そこにはどうしてもファンタジーの力を借りなければならない部分がある。
 もちろん、北海道考古学会会長の肩書を持つ著者は、現場において数々の縄文の遺物に触れ、われわれ以上にその実態を知っているであろう。
 だが、そこに思いを馳せることと理屈だって解釈しうることとは別の問題で、あまりにも縄文の実態からかけ離れている何かを感じざるを得ない。

 ……と、大分否定的な書き方をしてしまったが、視点のひとつとして本書のような解釈もまた必要であることは確かだ。
 従来の考古学で語られてきた縄文人の生活、そこに対する新たなアプローチのひとつとして面白い一冊。

関連図書


縄文時代の歴史

縄文人に相談だ

 
 
 


まんが アフリカ少年が日本で育った結果
星野ルネ

出版社:毎日新聞出版
発売日:2018/08/20
 
まんが アフリカ少年が日本で育った結果 ファミリー編

 カメルーン生まれ関西育ちの星野ルネさんの自伝的マンガ。Twitterで話題を呼んだ作品に多くの書き下ろしを加え、発売以来各方面で書評・紹介が相次いだ傑作。

 カルチャーギャップが生み出すさまざまな出来事は、ときに笑いを呼び、ときに人種の問題というシリアスな緊張感を提示する。しかし、どのエピソードにもポジティブで前向きな感想を作者は抱いている。
 それは、カメルーンと日本という二つの文化圏を行き来しながら成長した作者だからこそ、相互に絶妙な距離感を保ちつつ、冷静に事態を受け入れ咀嚼できたのだろう。

 人材受入や観光客誘致によって海外の方を目にする機会が劇的に増した昨今、実際に日本に対してどのようなイメージあるいは感想を抱いているか、疑問に思う人もいるだろう。あくまで一例ではあるが、その答えを垣間見たような気がした。
 「おわりに」の部分で作者の父親が「文化というのは、モノではなくその時代時代に生きている全ての人間の営み」、つまり人間そのものだと語っているが、全編を通しそのことを深く実感できた。

 ちなみにカメルーンでの常識や生活様式など、いわずもがなだが興味深いネタも豊富であるw

 
 
 


地元がヤバい…と思ったら読む
凡人のための地域再生入門
木下 斉

出版社:ダイヤモンド社
発売日:2018/11/15

 都心からほど近いところにある地方都市を舞台に、地域再生・事業創造の一例を小説仕立てで描いた「まちづくり」マニュアル。
 地方都市の「まちづくり」に長年関わってきた著者の実体験とおぼしき内容なだけに、その現状・現実が真実味をもって浮き彫りにされている。
 「補助金は麻薬と同じ」と著者は語る。なるほど、読み進めるに従って、その言葉が意味するものがどれほどの悪循環をもって地方経済に根深く染み渡っているのかが理解できた。同時に、その悪循環に対し、地方の人間がいかに鈍感でいるかがわかる。
 作者の提示する地域再生の足がかりとその過程が、ストーリーの展開と相まって実によく理解することができる。また著者の『稼ぐまちが地方を変える』において示されている町づくりの鉄則が、具体的にどのように適応されているのかがよくわかる。

 しかし、都市というに及ばない、さらに地方の寒村に住するわたし的に葉、少し疑問をもってしまう部分もある。その多くが行政の無能ぶりに対する著者の徹した批判的態度だ。
 ネタバレになってしまうので詳しいことは書かないが、本書中の事業創造においても、そのきっかけ、鍵となっている人物が登場する。そうした人物が必ず地方にいるなら話しは別だが、実際にはそうではない。また、行政側が積極的な振興を図ろうも、民間側が怖じ気付いている場合もある。
 もちろん本書は数ある地方都市の中の一例を示しているに過ぎないが、民間同様、行政もまた変わりうる要素を十二分に持っていることも看過してはならないと思う。
 「補助金は麻薬」確かにそうだが、毒も薬も使いようだともいえるかもしれない。

関連図書


 稼ぐまちが地方を変える
 誰も言わなかった10の鉄則

奇跡の集落: 廃村寸前「限界集落」からの再生

 
 
 

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