本の話し

2017年02月の本


ドナルド・トランプ 黒の説得術
浅川芳裕

出版社:東京堂出版
発売日:2016/10/26

2016年11月8日に行われたアメリカ合衆国大統領選挙。
それに至る熾烈な候補者選びとトランプ―クリントン両氏による激しい舌戦、
そして世界中が驚愕した選挙結果は記憶に新しいことだろう。
その投票日直前に刊行されたのが本書だ。
私個人の話しになって申し訳ないが、
刊行直後、プライベートで利用しているSNSのタイムラインでこの本を読んだという人が何人かいた。
そして異口同音こう書き込んでいた。
「この選挙、トランプが勝つ」
中には確信したという人までいた。
結果はご存じのとおり。……
一体この本には何が書かれていたのか?
年末、やっとこの本に目を通すことができて正直驚いた。
日本のマスコミではその過激で品格を疑う言動などが
センセーショナルな形でばかり報じられていた。
しかしその裏にある意図、話術のテクニック。
トランプ氏の演説をくまなく聞いたという著者が
古代ギリシャのアリストテレスやキケロ、
果てはユングまでも引合いにだし、
その言動一つひとつが隠された緻密な計算に基づくと分析している。
ある種の洗脳操作といっても良いかもしれない。
なぜ彼はあのような暴言を放ったのか、
なぜあのような簡単な英語しか使わないのか。
著者はそれらを早い段階で指摘していた。
そしてそれはこれから先、
トランプ新大統領が何を考えどう行動していくのか、
そのことを予測する上でも非常に重要な視点となってくるはずだ。


フリーランスを代表して 申告と節税について教わってきました。
きたみりゅうじ

出版社:日本実業出版社
発売日:2005/12/8

確定申告の時期ですね。
皆さんはもう準備はお済みでしょうか?
さて、まずこの本の刊行された年を確認ほしい。
『2005年』
はい、もう10年以上前に出た本だ。
しかし安心して欲しい。
本書で取り上げられている税制が改訂されるたびに、
その部分もちゃんと改訂されている。
でも本書の特筆すべき点はそれだけではない。
税金とはそもそもなんなのか、
納税に関わる周辺情報も含めてかなり平易に書かれている。
また、ややこしい科目の振り分けや減価償却のこと、
青色申告に必要な帳簿づくりの基礎や申告上のポイント、
果ては節z……おっと、これ以上はアレがアレなんだが、
とにかく、具体的な例を交えつつ
予備知識がなくても基本的な流れが分かるように解説されている。
また“フリーランス”と題されていますが、
普通の個人事業主さんにも、初めて確定申告するという人にもオススメ。


反応しない練習
草薙龍瞬

出版社:KADOKAWA/中経出版
発売日:2015/7/31

私は学生の頃、哲学を専攻していた。
正確にはインド哲学・仏教学である。
そして今やロングセラーとなっている本書を読んで思ったのは
「…これ、概論と仏教史の講義で習ったヤツだ」
ということだった。
もちろん著者が講師だったわけではないが、
この本に書かれている基本的なことは、
インド哲学や仏教学に触れた者なら必ず一度は耳にしたことのある内容のはず。
だが本書の特筆すべきところは仏教や釈尊の教えをただ抽出しただけでなく、
それを現代社会においてどのように当てはめ、どのように活用していくか、
そのことを著者の経験や原始仏教経典の言葉などを通して分かりやすく解説している。
個人的な見解として、
仏教という一つの思想体系(あえて宗教とは言わない)は
仏典などに説かれる理論や理屈をただそのままに実践するのではなく、
その向こう側にある本質的なものに基づいて実践し、
本質そのものを捉え帰結していくもののように思う。
その実践の方法というのが、
長い歳月の中で例えば禅であったり念仏であったり観想であったりと、
様々な工夫や方法論によって現在の多岐にわたる仏教の形になったのだろう。
しかしながら、その本質的な部分、基底となる思想は変わらないはずだ。
この本はそのことを良くとらえていると思うし、
またそれをどのように実践していくかを段階を踏んで丁寧にまとめられている。
またこれも個人的な見解なのだが、
著者の草薙氏の経歴もさることながら、
仏教上のいわゆる宗派ということに関して、
氏はいわゆる“フリー”という立場であることを大いに評価したい。
私自身は得度・出家をしていないが、
もしそうすることがあれば同様の立場にありたいと思う。


北の墓
合田一道

出版社:柏艪舎
発売日:2014/6/20

数年前、亡き祖父との約束を果たすべく、
我が家の北海道入植前後からの写真や家系図をまとめた
100余ページにわたる冊子を自費にて上梓した。
幼少時、曾祖父から聞いた家系や入植時の様子のこと、
北海道入植を果たした高祖父(それが甚之助という爺さん)の生まれ故郷での古老の話し、
また親戚・遠戚の昔話、
それらをまとめていくうちに見えてきたのはやはり先人たちの苦労と努力の痕跡だった。
本書は上巻で北海道の黎明期から大正期まで、
下巻にて昭和初期から平成の現代に至るまで、
北海道の歴史とその発展に尽力した人々の足跡と墓所、
命日や戒名(法名)、諡号まで掲載した力作だ。
上下巻それぞれ100人ずつ取り上げられているが、
その他にも北海道の歴史を語る上で欠かせない事件や事故の慰霊碑なども載っている。
数年前、NHKの朝の連続ドラマ小説で取り上げられたマッサンこと竹鶴正孝など、
歴史の教科書にもたびたび登場する人物がやはり多いが、
政治家や文化人などの枠にとらわれず、
それこそその分野に通じている人ならば知っているであろう、
しかし北海道を語る上では欠かせない人物にもスポットを当てている。
道内のテレビやラジオで北海道の歴史を扱う際、
この本の著者である合田氏は必ずと言っていいほど登場するのだが、
その精通ぶりと広範にわたる調査・研究を行う、
合田氏をしてしかなしえなかった著作ともいえるかもしれない。

北の墓 下  合田一道

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