本の話し

2018年04月の本

 
 


 
〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則
ケヴィン・ケリー 著  服部 桂 訳

出版社:NHK出版
発売日:2016/07/23

 AmazonでもIT部門で年間ベストセラーを獲得した本書。タイトルから察するに、大衆化されて20余年の経ったインターネットの次代を担う何かを想起せずにはいられなかったが、原題の“Inevitable(不可避なるもの)”という言葉を見て、なるほど、インターネットの未来を規定するなにかをこの本は語っているのだと理解した。400ページを超えるなかなかの厚さの本の冒頭で著者は「本書では、今後30年を形作ることになる12の不可避なテクノロジーの力について述べることにする。」と語っている。
 現代社会にあって必要不可欠なものとなりつつあるインターネット。それに関係する12のトレンドについて、今後どのような展開をみせるのか、どのような社会変革を起こすのかを克明に想起・展望している。
 Cognifying(AIと人間の関係)、Screening(あらゆる情報を格納する図書館)、Tracking(人生のすべてを記録するログ)など各章のタイトルにはかなり刺激的な言葉が並ぶが、その内容は想像や予測という単純な枠に収まるものではない。インターネット黎明期よりその姿を見守り続けてきた著者だ。彼の語るテクノロジーがもたらす未来への深い洞察には驚嘆せざるを得ない。
 
 ここ数年、私自身なにかを創作したり立ち上げたりする際、「その先に何があるのか?」という命題が常につきまとっている。実際その先になにもなくても構わないのだが、今ここで作り出したものがどういった未来に帰着しうるのかと考えることに、ちょっとした好奇心をくすぐられているのだ。本書はインターネットに関するものではあるが、そこでなされている思索は、他のジャンルにおいてもひとつの解に至る道程を教えてくれているようにも思う。
 本文中でとても興味深かったエピソードなのだが、著者はWikipediaの成功を「意外なこと」ととらえていたようだ。それがなぜなのか、そしてそこからどういう未来を想起しているのか、その辺のくだりも実に面白いのでぜひ一読して確かめてみてほしい。

 
生きて、もっと歌いたい 片足のアイドル・木村唯さん、18年の軌跡
芳垣文子

出版社:朝日新聞出版
発売日:2017/10/06

 2015年秋、一人の少女がこの世を去った。名前は木村唯。東京・浅草にある老舗遊園地『花やしき』で週に一度ステージを披露する『花やしき少女歌劇団』というアイドルグループのメンバー。18歳だった。
 15歳の時、横紋筋肉腫という発見の難しい小児がんを発症し、彼女は右足切除した。だが彼女は、そんな片足を失った状態でもステージに上がり、歌い踊り続けることを諦めなかった。
 昨年秋に出版されてすぐに一読したのだが、正直なところ涙なしには読めなかった。彼女の背負った運命や境遇を、可哀相などという悲観に満ちた気持ちで眺めたからではない。むしろ、本当に歌うことが好きで、踊ることが好きで、人を楽しませることが好きで、なによりその気持ちに真剣で偽りがない姿に感動しての涙だった。
 何度か羅列記事の方でもリンクを貼ってきたが、その度に再読しようかと都度思っていたが、つい先日まで再読出来なかった。はたして自分は本書の中で出会ったこの片足のアイドルに、面と向かえるほど自らの気持ちに誠実な生き方ができているのだろうか? そう思えてしまったからだ。しかしなぜ先日再読したかというと、2016年初頭、NONFIXで放送された彼女のドキュメンタリーをたまたま観たことがきっかけだった。内容はほぼ本書と同じだが、テレビ番組ということもあり重要な部分を抽出した感じなので、細かい心情のやり取りや人物関係など、本書ではどうだったかと思い読み直したまでだ。しかし再び泣いてしまった。彼女の生きざまをたどればたどるほど、自分はまだまだ誠実に生きられていないなと、痛感した。
 本文中には年頃の女の子、そしてアイドルとしての華やかな姿がある一方で、読んでる側でさえ戦慄するような深刻な病状が語られている。義足による激痛との闘い、人生の岐路での出会いや別れ、そうした繰り返しの中でも、一途にステージで歌い踊りたいという彼女の気持ちに強く心が打たれた。
 最終章で、同じグループのメンバーや級友たち、治療に関わった関係者など、その姿を間近にした方々が彼女が残しあるいは託していったものをそれぞれに語っているが、それが彼女の生きざまそのものを物語っているように読めた。
 私自身は生前のステージを生で見る機会がなかった。しかし、片足のアイドルとしての活躍はネットを通じ知ってはいたし、動画サイトでステージ上の彼女の映像も見ることができる。本当に心から楽しそうに歌い、踊っている。「キラキラと輝いている」。在り来たりな表現だが、まさしくそのものだと思う。
 「あとがき」にて、木村唯というアイドルの才能をいち早く見出した故・平尾昌晃氏が、本書の完成前に亡くなられてしまったことを著者は悔やんでいるが、読者としても同感である。しかし、それが人生という数奇なものの定めなのかもしれない。
 cf,2016.3.2 <NONFIX>それでも生きて歌いたい (Youtube)

 
イラストでまなぶ! 戦闘外傷救護 -COMBAT FIRST AID-
照井 資規 著

出版社:ホビージャパン
発売日:2018/02/28

 日本の自衛隊はこうした分野においては遅れをとっているという話しをよく聞く。それは平和の証かもしれないし、同等に差し迫った世界の紛争に対して無防備な状態であるともいえる。
 本書は米軍最新の情報に基づき、戦闘時における現場での負傷者救護・延命のために取られる処置のノウハウを教えてくれる。カバー絵に気を取られてはいけない(でもカワイイw)。一たびページをめくれば医学書そのものだ。
 とはいえベースが米軍仕様のため、日本では手に入らないような救援用具なども紹介されている。また、ノウハウとはいってもその場での処置をどうするかということに重きが置かれ、現場からの搬送する際のことなどが書かれていないのは少し難点といえる。
 ただ大切なのは、日本でも十分起こりうるテロ等の一般市民が標的となる災難時に、現場でどのような対処ができるか知っているか否かの問題だ。海外ではこうしたことを日本における義務教育の期間にある程度習うという話しをきいたことがあるが、それゆえその場での対応には大きな差が出ることは必須だ。また、応急処置に関する他の書籍を当たろうにも、どれも高価である場合が多い。
 ヒライユキオ先生のイラストに騙されて買ったとしても全く損はないと思う(ネイビーさんカワエエwww)。

 
「子供を殺してください」という親たち
押川剛 原作  鈴木マサカズ 画

出版社:新潮社
発売日:2017/08/09

 なにやら物騒なタイトルだが、「どこかで聞いたことのあるような…」と思っていたら、原作となる方を以前読んでいた。
 内容はタイトルの通り。どうやら書かれていることは実際にあったことらしい。
 “親の子殺し”というのは動物界においても自然の掟として起こりうることを知っている人は多いだろう。ただ、感情という側面をもってそれをなすのは多分人間だけだろうと私は思う。人間はあまりに弱い。弱いが故に社会というものを形成した。だがその結果そこから溢れ出る者が出てきた。その時“ヒト”は何を思うのだろうか? もちろん個人の尊厳や自由といったものは現代社会において保障されて然るべきものではあるが、それは同時に他者の尊厳や自由を阻害しかねない危険をはらんでいる。でもその逆は……と言い続けた果てにあるのは“自由”という言葉の持つ終局的なジレンマだ。
 個人的な経験を語れば、私もここに登場する“子”の立場だったかもしれない。私はあまり親・兄弟との折り合いがよくない。ほかの兄弟は皆“教師”という職業柄、曰く「立派な職業」に就くことを幼少時より望みまた叶えた。他方、私は「小説を書きたい」と言い出して結果その道に進んだものの、親からは「とんだろくでなし」と言われ続ける半生。学業でも兄弟中ダントツの成績を残したはずなのに、幼少時には言われたことはキチンと守り通したのに……(個人的な悔恨はこのくらいにしておく)。
 親の望んだ道を逸れた子を、結局その親が持て余した結果起こった悲劇は多い。果たしてそうした親に“親”と称する資格はあるのか? はなはだ疑問だ。原作の押川氏は「親から捨てられたのではなく、自分が親を捨てたと思えば良い」というが、その根が深いことは当事者しか知らない。
 
 

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