ゼロ―なにもない自分に小さなイチを足していく
堀江貴文
「堀江さんって、すごくおせっかい焼きだなぁ」
と、一読後に思った。
本書はホリエモンこと堀江貴文氏の生い立ちから
ライブドア設立、逮捕、仮出所に至るまでが
自叙伝的な視点でまとまっている。
そして2013年の刑期終了を期に、
文字通“ゼロ”からのスタートを氏は切った。
なぜ「おせっかい焼きだ」などと感じたのか。
それは、この本のどこにも“努力”という言葉が出てこないからだ。
氏が自ら考え実行したこと、氏の弱点、
過去の苦い経験、大切にしているもの、
これから何をしたいかというビジョン。
氏はこの本の中でそれらを惜しげもなく書いている。
誇るわけでもなく、卑屈になるわけでもなく、淡々と語っているのだ。
そしてそれがいつしか「なぜ働くのか?」という
究極的な問いに対して明快な回答を与えるに至る。
しかし“努力”という言葉はただの一度も出てこない。
むしろ、「あなたが仕事や人生に怖気づく理由」と題した章では、
それは“自信”の問題ととらえ、
「自信を形成するための『経験』が、圧倒的に不足してい」ると考察している。
「なにかを待つのではなく、自らが小さな勇気を振り絞り、
自らの意思で一歩前に踏み出すこと。
経験とは、経過した時間ではなく、
自らが足を踏み出した歩数によってカウントされていく」
当たり前とされている価値観に目を向け、
自らの力で考え一歩を踏み出していく。
本当なら人生の色んな辛味や苦味を味わい経て初めて至れる視点を、
堀江さんは自身の経験を昇華する形でこの本の中に収めている。
この人は、本当におせっかい焼きだ。
三島由紀夫 幻の皇居突入計画
鈴木宏三
三島事件からすでに半世紀近い時が過ぎた。
それでも未だ、この事件についての新刊本は後を絶たない。
三島死後、その真意を知ることはできない。
しかし、それゆえに人々に重大な問題を投げかけ、
惹きつけていることは確かだ。
この本はタイトル通り、
三島由紀夫が市ヶ谷駐屯地にて割腹自殺を図った事件以前に、
皇居に突入する計画があったという。
その幻に終わった事件計画の真相を、
少ない資料の中から、精力的な取材と著者一流の推察を経て
大胆な仮説を提言するに至る本書は、圧巻の読みごたえだった。
生前の三島を知る人は今だ多い。
またその研究者もあまたある。
その中で噂話としては上がることはあっても、
決して何人も正面切って語ることのなかった幻の計画に
この本はどこまで迫れているのかは人により判断は分かれるかもしれないが、
戦後の日本人に大きな謎を残した三島事件に、
新たな解釈の視点が生まれたことは確かだ。
日本人投手がメジャーで故障する理由
小宮山悟
著者である小宮山氏といえば、
私が幼少時にはロッテの看板投手として活躍していたことを記憶しているが、
今回改めて氏のことを調べてみたら、意外なことが多く驚いた。
氏は高校時代全く無名校で野球をしていた。
もちろん甲子園出場の経験はなく、大学にも2浪の末早稲田に実力で入った。
そしてプロ入りはドラフト1位。
最終的にはメジャーのマウンドでも投げている。
いわゆる「野球バカ」になることなくプロ入りを果たし、
一流選手にまでに上り詰めた稀有な人物と言える。
そんな氏をして、野球への根本的な取り組み方や
野球を巡る組織や環境への問題点などにも言及しつつ、
日本とメジャーの両方を経験した当事者として
その違いと実態を書いている。
氏は意外にもJリーグの理事も務めている。
また現役時代後半には大学院に在籍し、学生とプロ選手の二足の草鞋を履いた。
本職の野球だけでなくスポーツ全般に対しての氏の深い見識は、
これから重要になってくるかもしれない。