尾野真千子さん主演のNHK土曜ドラマ『夏目漱石の妻』が放送開始となっている。
家庭内は経済的にも不穏としかいいようがない感じを抱きながら見ているが、
ふと、教科書なんかに出てくる有名な作家たちの懐事情が気になったので調べてみた。
◎夏目漱石
日本を代表する文豪のひとりです。
言わずと知れた旧千円札の人。
帝国大学英文科を卒業後、英語教師を経て作家になった。
デビュー作『吾輩は猫である』はあまりにも有名。
芥川龍之介をはじめとした多数の門下生がいたが、
お金にはかなり苦労していたようで、『道草』などにその様子が描かれている。
生涯借家住まい。
◎芥川龍之介
芥川賞に名を冠する文豪。
『羅生門』は高校の国語では必ず取り上げられているはず。
教師をしながら専業作家を目指していたが、
人気作家となった後も自分の家族だけではなく、
兄弟や実家の家族も養わなければならなかった。
さらに追い打ちをかけるように、
晩年には放火と保険金詐欺の嫌疑をかけられた義兄が自殺するなど、
経済的だけではなく精神的にもかなり追い詰められていたようである。
◎川端康成
日本人初のノーベル文学賞作家。
「ある時に払い、ない時は払わない」というポリシーのもと、
滞在先の旅館の宿代の踏み倒しにはじまり、
借家の半年分の家賃を踏み倒した挙げ句に
立ち退き料までせしめたらしい。
また、大骨董好きで、借金してまで買い漁ったというエピソードもある。
◎太宰治
太宰の生家は青森の大地主だったが、
本人は経済的にほとんどその実家に頼り切りだった。
流行作家となるまでに、
生活費がつきそうになったり、実家からの仕送りが途絶えそうになると、
ほぼ必ず自殺未遂を起こして、援助を伸ばしてもらっていたとかなんとか。
◎中原中也
目を爛々と輝かせて映る有名な写真は、
詩人という姿の代名詞だろうか?
だが、中也本人は一生涯、自分でお金を稼いだことがなかったようだ。
母フクの回顧録などに詳しいが、
結婚しても子供ができても働くことはなかったらしい。
就職のススメがあって放送局へ面接に行った時も
「玄関の守衛でいい」
とか答える始末。
そんな中ほぼ憤死に近い形(と私は思っている)で30歳で死去。
また私は個人的に中也は元祖厨二病患者だと思っている。
◎宮沢賢治
残された作品と相まって、坊主頭で朴訥な表情をしたその姿は
時に聖人君子のような人物像を浮かばせるが、
金銭面に関しては
「お金に困った友人がいれば、その友人のために月給をすべて渡してしまう」
といったトンデモエピソードを持っている。
なぜそんなことができたのか?
実は実家がとてつもない金持ちだったというだけである。
友人らとせっかく出した同人誌が店先で平積みのまま売れないでいるのを見ると、
それらを全部買い取ったという話しもある。
◎坂口安吾
太宰治・織田作之助と共に無頼派作家の代名詞である安吾は、
新潟の裕福な家庭に生まれ育つものの、
ヒロポンを打って数日間ぶっ通しで執筆をし、
その原稿料をやっぱり数日間で全て呑み代に当ててしまうなどの破天荒な生活を送っていたようだ。
挙げ句の果てには流行作家となってからも収入を全て使い切る生活をしていたため、
税金滞納により家財や蔵書、原稿料も差し押さえられる。
薬物や精神的な問題で被害妄想などに取りつかれていた時、
たまたま滞在していた檀一雄宅の庭先ででんぐり返しをしながら
「ライスカレー100人前」
を注文した話しは、安吾ファンにとってはあまりにも有名。
以上、かいつまんでもこのように出るわ出るわの大騒ぎである。
(小説家や詩人といった)作家=食えない
という公式も頷ける。
これは作家に限らないだろうが、
芸術分野で食べていこうということ自体奇跡のような一面もある。
そして「それでいいのだ」と腹に決めることは並大抵の決意ではないはず。
ゆえにお金に関しても、
こうした破天荒な考え方や使い方を自ずとしてしまうのだろう。
責められないし、責めちゃいけないと思う。
多分。
ちなみに冒頭で書いた夏目夫妻のドラマだが、
今までも他局とかで何度か映像化されている。
その中で個人的に好きなのは、
10年くらい前に本木雅弘・宮沢りえコンビで放映された『夏目家の食卓』である。
≪参考文献≫
・新潮日本文学アルバム(新潮社)
・私の上に降る雪は―わが子中原中也を語る(講談社)
・クラクラ日記(筑摩書房)
などなど……。